昔、海外をバックパッカーでうろうろしていた時のこと。
中国人民共和国から、中央アジアのキルギス共和国に向けて陸路国境を越えていこうとしていた。
ここの国境地帯は、とにかく面倒な事情になっている。
中国国境とキルギス国境で約7kmの緩衝地帯が設けられており、さらに道幅が狭いという理由から、キルギス側からが午前中、中国側からが午後と通行できる時間帯が決まっている。
緩衝地帯には帝政ロシア時代のイルケシュタム要塞があって、バス車内に2回も軍人が乗り込んできてパスポートチェックを受けるという厳重さだった。
緩衝地帯をバスで通行しているとき、車内で運転手が乗客に向かって何か警告するような声で喋りだした。
キルギス人の言葉がわからなかった僕にはさっぱりだったが、車内の様子を見ていると、驚くことに乗客がキルギス通貨500COM(約1,400円)を運転手に手渡していた。そしてリストを作ってお金を渡した人は名前を書き込んでいるようだった。キルギス人の平均年収は5万円以下なのでちょっとした額だ。
その時、ずっと前にこの国境を越えたことのある人との会話を思い出した。
キルギス国境では、問題なく通過するために賄賂を払う慣習がある。
場合によっては、賄賂を払わなかった人が銃を突きつけられて、脅されたり、賄賂を払わなかったという理由で、難癖付けられて、長時間拘留された挙句、結局200ドルもとられた人がいるらしい。
僕はキルギス通貨のCOM(スム)を持っていないので、払いようがなかった。他の乗客は全員払っていた。
こんな緊張した国境越えは初めてだった。
そしてついに緩衝地帯を抜けてキルギス側の国境に到着した。
順番にバスから降りて、入国審査を受けに行く。
僕は万が一の時の為に、とっさに出せるように残金の10元(約150円)をポケットに入れて、覚悟を決めてバスを降りた。
すると、最初にあった軍人が親指を立てて「Japanese? Good!!」とニコニコしながら言われた。あれ?なんか友好的でいい感じだ。荷物チェックも一瞬バックの中身を見せただけでOK。入国審査も難なく入国スタンプを押してもらい、あっさりと入国できてしまった。
銃を突きつけられるくらいの覚悟で挑んだのに、すんなりすぎて逆に拍子抜けしてしまった。他の外国人たちや、もちろん賄賂を渡したキルギス人たちもすぐに通過してきた。
その時、気がついたが日本人だけがキルギスの入国はノービザだった。
後で調べたところ、日本はキルギスに累計数百億円ほどのODAをしているからだという。
日本の血税が外に流れているのに納得いかないところもあるが、今回の旅では助けになった。
公開日:2014.09.29
怖いですね……。
結果的に救われたのですね。