バスに乗っていると、私の座席と窓の隙間から子どもの両手が

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photo by pakutaso.com

正直わたし自身、この体験をした時、特に怖いという感情は抱きませんでした。
不思議だな、とは思いましたが。

初夏、わたしは好きな人に告白をされ、大喜びでお付き合いをスタートさせました。
ある日ちょっと遠出をしてみようということで、某所にある牧場に2人で出掛けました。
その牧場はエリアが分かれており、少し遠いエリアに移動するときは専用のマイクロバスに乗って移動するのです。
牧場自体はとても楽しく、イベントなども楽しんだ後、またマイクロバスに乗って元のエリアに帰ることになりました。
バスに乗っていると、私の座席と窓の隙間から、子どもの両手が出ていました。
後ろの席の子どもがいたずらして手を出しているのだな、と微笑ましく見ていました。
彼にもそれを知らせると、なぜか彼は変な顔をしました。

バスを降りるとき、彼が私にコソッと言いました。
「後ろに子どもは乗っていないよ、大人だけだよ」
私も後ろの座席を見てみると、確かに子どもは乗っていません。
大学生くらいのグループでした。
しかし、さっき私の座席の後ろから出ていたのは確かに子どもの両手です。
大人の大きな手とは見間違えるはずがありません。

彼は、どこか挙動不審になりながら、「勘違いだよ」と言い、私の手を握りしめました。
彼の手は冷たく、しっとりと汗ばんでいました。

そこで、なぜでしょう、うまく言えないのですが、あんなに大好きで仕方なかった彼への気持ちがストンと冷めたのです。

とても勝手なのですが、好きでもなんでもなく、むしろこの人と一緒にいてはいけないと思ったのです。

帰りの車の中、私は彼にありのままの気持ちを伝え、お付き合いをやめたい旨を話しました。
彼は了承してくれたのですが、私のアパートの前まで来た時に突然、君に言わなければならないことがあると言いました。

「俺、結婚してるんだ」

そう言われました。
不思議と、私は怒るでも悲しいでもない感情でした。
もちろん、彼が今まで既婚者だということはまるで気がついていませんでした。

もしかしたら、あのバスで見た手は、私に何かを教えるために出てきたのかもしれません。
もしかしたら生まれるはずだった彼の子どもなのかもしれないし、それは全く分からないことです。
しかし、少なくとも私を良い方向に導いてくれたのは確かです。
誰だか分からないちびっ子の手、気がつかせてくれてどうもありがとう。

公開日:2014.12.25

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